**シネセゾン渋谷が閉まるらしい。クロー
ジングイベントで『リンダ リンダ リンダ』
をやるらしいので見に行った。シネセゾンは、
めずらしくコロナビールを売っている映画館
だった。非常に希少価値が高い。まあ、そん
な程度だ。
ずいぶん時間が余ったので、渋谷を歩いた。
学生時代は渋谷ばかりで新宿なんて行かなか
った。ましてや池袋なんて。魔界だと思って
いた。しかし、ほんとうの魔界は渋谷だった。
道玄坂から円山町に抜けた。円山町と松濤の
境が今ひとつわからん。とにかく、目当ては
円山町の油そば。前々から気になっていたん
だけど、ついつい時間が合わなくて行けなか
った。チャーシューがうまかった。また来よ
うと思った。
シネセゾンでビールを買おうと思ったら、コ
ロナビールはなかった。もう仕入れてないん
だろうなあ。ハイネケンがあったので、それ
でヨシとした。
バンドをやったことがあって、特にギター弾
きはわかると思うが、ギター弾きは自分のギ
ターを絶対に人に貸しっぱなしにしない。ち
ょっと貸すことはあっても、手放すのは別の
ギターを好きになったときだけだ。案外、ベ
ーシストって、その感覚ないんだよなあ、不
思議と。
だから、『リンダ リンダ リンダ』を初めて
見たとき、「ギターを貸す」っていう展開に
驚いた。それもフツーに。しかもキーボー
ディストに。これは、ありえない。ギターっ
て、意外にすげー手間がかかる楽器で、かな
り手塩にかけるところがある。同じギター弾
きで、こいつなら大丈夫だろうと思う以外、
ギターは貸さない。ま、そんだけ責任感を感
じたんだろうな、あの子は…いやいやいや、
それでもありえない。そんなもんだ。
だから、ベーシストが「ベースを置き忘れた」
っていう展開にも椅子から飛び上がるくらい
驚いた。そーれは、ないよ。雨の中、ギター
を濡らしながら走るってのも驚くんだけど。
ずーっと、ずーっと、この監督はバンドのこ
と知らないだろうなあと思ってきた。で、映
画が始まる前の監督のトークショーで、やー
っと腑に落ちた。「バンドのことは知らない
し、この仕事を受けるのも躊躇した」って。
なーるほどね。でも、この映画は大好きだ。
バンドを知らない監督が撮った映画だからだ。
ロックの映画は、あまり好きじゃない。だっ
て、酔ってるんだもん。特にドキュメンタリー
。見えないところを見せてくれないとつまら
ないのに、いつも見えることばかりだ。だか
ら、『リンダ リンダ リンダ』は新鮮だった。
まあ、ギターの貸し借りくらい大目にみてや
ろーじゃねーか。
結局、この映画は、バンドの映画でもロック
の映画でも、ましてや音楽の映画でもない。
これは学園祭の映画だ。だから、冒頭で学園
祭開始の宣言がある。彼女たちはバンドをや
っているように見えて、じつはたこ焼きを焼
いている。
学園祭で焼きそば焼いたり、たこ焼き焼いた
りするのって、焼きそばやたこ焼きが好きな
ワケじゃない。学園祭でブルーハーツを演奏
するのも、ブルーハーツが好きなワケじゃな
い。そもそも、学生時代のバンドは、そんな
ものだ。
そういえば、山下監督がペ・ドゥナの起用に
ついて、ブルーハーツの歌詞が思い入れを込
めずに歌えるから、という趣旨の発言をして
いた。「リンダリンダ」もブルーハーツも
「記号」で良い。つまりは「たこ焼き」で良
いということ。
『リンダ リンダ リンダ』に感じる潔さとす
がすがしさの正体は、そういうことだと思う。
* * *
お祭りが終わって映画館を出るとき、ちょっ
とだけ一礼して帰った。